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市川泰憲(写真技術研究家、日本カメラ博物館)

  市川 泰憲(いちかわ やすのり)
1947年東京生まれ。中学・高校・大学と写真部に所属。1970年東海大学工学部光学工学科卒業。同年写真工業出版社入社、月刊「写真工業」編集長を経て、2009年より日本カメラ博物館に勤務しながら幅広い写真活動を続ける。日本写真協会会員。

■ブログ「写真にこだわる」開設しました
http://d.hatena.ne.jp/ilovephoto/

第六回「ヘクトール・ズマロン・ズミクロン 3本のライカ28mmレンズ」
【レンズ外観写真】
<3本の28mmライカレンズ>ズミクロンM 28mmF2 ASPH.、ヘクトール28mmF6.3、ズマロン28mmF5.6
[画像をクリックすると大きくして見られます]
 ここに3本のライカ28mmレンズがある。スクリューマウントの「HEKTOR 2.8cmF6.3」、「SUMMARON 2.8cmF5.6」、そしてMバヨネットマウントの「SUMMICRON-M 28mmF2 ASPH.」だ。ヘクトール28mmF6.3の発売は1935年、ズマロン28mmF5.6は1955年、ズミクロンM28mmF2ASPH.の発売が2000年だ。もちろんライカの28mmレンズには、このほかにも1965年に発売され何世代か改良を加えられた「エルマリート28mmF2.8」、2006年にライカM8と同時期に発売された「エルマリートM28mmF2.8ASPH.」もあるが、とりあえず手元にあるライカ用28mmレンズということで、この3本をフルサイズボディの「ライカM9」との相性を探ってみることにした。
  ヘクトールは最初のライカ用28mmレンズで、最新のズミクロン28mmとの間には65年もの歳月が経っている(光学性能という意味であり、実際はここにあるズミクロン28mmはM8が発売された以降の6bitコード付きであるので、70年以上の開きがある)。この間にレンズタイプとしてどのような発展を遂げたのであろうか。それぞれのレンズタイプを構成図から見てみよう。

●レンズ構成のタイプを見る
  まず「ヘクトール」の3群5枚構成は、前後貼り合わせ凸を対称形に配し、その間に凹レンズを配置しており、レンズタイプとしてはフォクトレンダーのヘリアタイプと近似している。これに対し「ズマロン」は4群6枚構成に変更されている。レンズタイプとしては、いわゆるガウス対称型である。どちらも薄型レンズであり、同じ広角の対称型スーパーアンギュロン21mmなどが後部に極端に出っ張っているのに対し、ヘクトールとズマロンは口径の小さいこともあり薄型・小型に仕上がっている。ズマロンは、ヘクトールのF6.3に対してF5.6と半段明るくなっているが、大口径化に加え、周辺光量の増加を狙っての改良であったと考えられている。ところでヘクトールの絞り表示は大陸式でF6.3-9-12.5-18-25となっているが、後期型にはF6.3-8-11-16-22と国際式絞り表示になっているのもあるようだ。
  そしてズミクロンM28mmF2ASPH.は、レトロフォーカスタイプが採用されている。ご存知のようにバックフォーカスを稼げるレトロフォーカスタイプを採用すれば周辺光量の落ち込みはかなり低減される。昨今のライカ用の広角レンズはすべてレトロフォーカスタイプである。レトロフォーカスタイプであれば、バックフォーカスがあることによりデジタルへの適応はかなりいい。ライカのレンズは、レトロフォーカスタイプへの移行は、いつ頃からだったのだろうか。
  調べてみると、ガウス対称型であったのは1965年に発売されたエルマリート28mmF2.8の第1世代までであって、1972年に登場したエルマリート28mmF2.8の第2世代ではレトロフォーカスタイプへと変更されている。まさかその時代にデジタルの登場を見越してということではなく、1971年に登場したライカM5や1973年のライカCLに用いられたフィルム面直前にCdS受光素子がアーム状に出入りする独特な測光方式への物理的な対応からレトロフォーカスタイプになっていた。
  結果として手元にあるライカ用28mmレンズは、「ヘリアタイプ→ダブルガウスタイプ→レトロフォーカスタイプ」へとレンズタイプとしては極めて教科書的に正しく進化してきている。これは同じ条件で写して比較してみるに値する進化だ。
【レンズ構成図】
<3本の28mmライカレンズの構成図>左から、ヘクトール28mmF6.3(3群5枚構成、ノンコート)、ズマロン28mmF5.6(4群6枚構成、単層膜コート)、ズミクロンM 28mmF2 ASPH.(6群9枚構成、多層膜コート)



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