京都ライカブティック(Kyoto Leica Boutique) - photographer 第八回「ライカM9で軟調描写を楽しむ」
ライカに始まりライカに終わる

市川泰憲(写真技術研究家、日本カメラ博物館)

  市川 泰憲(いちかわ やすのり)
1947年東京生まれ。中学・高校・大学と写真部に所属。1970年東海大学工学部光学工学科卒業。
同年写真工業出版社入社、月刊「写真工業」編集長を経て、2009年より日本カメラ博物館に勤務しながら幅広い写真活動を続ける。日本写真協会、日本写真芸術学会、日本写真学会会員、元東京工芸大学芸術学部写真学科非常勤講師

■ブログ「写真にこだわる」開設しました
http://d.hatena.ne.jp/ilovephoto/

第八回「ライカM9で軟調描写を楽しむ」
ライカM9にMバヨネットマウントアダプターを介して
ヘクトール73mmF1.9を取り付け
ライカ用の軟調描写レンズ、つまりソフトフォーカスレンズとして最も著名なのは「THAMBAR 90mmF2.2」だろう。1935年に製造されたというが、きわめて製造本数が少なく、市場に現れても大変高価で、残念ながら僕の手元にタンバールはない。レンズとしては3群4枚構成だが、絞り開放で独特の軟調描写を示し、絞り込むことにより通常のレンズのように鮮鋭な描写になるという。またアクセサリーとしてソフト効果強調フィルターが付属している。このフィルターは、中央部が円形に鏡面メッキされており、装着することにより周辺部だけの光線を使うためにソフトフォーカスの度合いがさらに強くなるという独特の仕掛けをもっている。
 とはいってもないものはないので、ここでは同じように軟調描写を示し、手元にある「ヘクトール73mmF1.9」とデジタルのライカM9で軟調描写を紹介してみよう。

【図1】
ヘクトール73mmF1.9(3群6枚構成)
【図2】
タンバール90mmF2.2(3群4枚構成)
●HEKTOR 73mmF1.9
 『ヘクトール73mmF1.9』は1932年に発売され、当時ライツとしては初めての大口径レンズであった。レンズは3群6枚構成(図1)であるが、前後群が張り合わせの3枚構成で、凸凹凸となっていて、前群・後群の凸面が張り合わせでなくなるとタンバール90mmF2.2(図2)にかなり近いレンズタイプとなる。 ただしヘクトールのほうは、特別に軟調描写を意識して製造されたわけではないようで、あくまでも当時はF2を切った大口径レンズであり、その時代の広告によると、絞り込むことによりエルマー50mmF3.5に劣らぬ解像度を持つとされていた。
 しかし実際は、現代の大口径レンズとはまったく異質な描写特性をもつレンズで、いまとなっては軟調描写レンズと位置づけても問題ないほどの個性あふれる描写をするというのが一般的な評価だ。その独特な描写と製造本数が多かったのだろうか、中古市場価格はかなりこなれているのでうれしい。